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人になった化け物は何を見て何を思うのか ーノエラ過去編ー前編その2

ーーー物置部屋 カチッ カチッ カチッ。 時計の針がゆっくりと時間を進めていく。 私は今絶体絶命の危機にいる…! 暗闇に包まれた部屋に、差し込む扉から放たれる光。 光に照らされたキツキ…いやツミラノアは影になって顔がよく見えない。 私は今までの人生で一番焦っていた。 「…っ…!」 『「…フフフ…怖いか?我が」』 ツミラノアは私に聞いてくる。 そんなの聞かないでもわかるはず…だけどツミラノアはあえて私に聞いている。 …これは少しでも時間を稼ぐチャンスだ…! ツミラノアは気まぐれに私の恐怖を更に煽ろうとしたのだろうけど、それは返って逆効果…! 私に僅かな希望を与えてしまった…! 私はここから巻き返してみせる! 「…そんなのわかっているんじゃないの…?キツキ…いやツミラノアッ!!」 私は大声で精一杯威嚇した。 様々な思いを声に乗せて。 するとツミラノアは口元が緩み出す。 「…プッ…ヒャハハハハハハハッ!!」 ツミラノアは笑う。 私は笑われたことに怒りを感じ、拳をぐっと固める。 『「我の名を知っていたか、なるほど。入れたがらないわけだ』」 ツミラノアはひらりとくるくる回りながら踊る。 なんでいきなり踊り出したのかはわからない。 『「いつから我のことを知っていた?いつ、どこで、何を見たのか。我に教えてくれないか?」』 くるくると踊っていたツミラノアは私の5歩くらい前で座り込んだ。 私はツミラノアの行動がわからなかった。 だけどこれだけは言える。 ツミラノアは私のことを、いつでも殺”せる人間だと思っている。 悔しいけど確かにその通りだ。 私は武術も習ったことない、魔法も習ったことない。 ただの4歳のひ弱な少女。 ツミラノアから見ればこれほどまで油断できる相手もいない。 ツミラノアの視点からそう考えてみるとさっきから意味のわからない行動も分かった気がする。 ツミラノアの急な踊りは思い返してみると扉から遠ざかっていっていた。 端から端までを2回、扉に駆け込むチャンスが4回あった。 ツミラノアは私を逃がそうとして殺そうとしていた。 私を見逃したと思わせて、殺す。 扉から出た瞬間、殺す 端から扉までなんて普通に考えれば追いつかれるのはわかる。 ツミラノアは大人をはるかに超える戦闘能力を持っているんだ、大人よりも身体能力が低い子供の私では逃げるだけ無駄だ。 ツミラノアが油断をしない限りは。 俯いていた私は前を向き、ツミラノアの目を見ながら質問に早く答えるのが最善か考えた。 何も話さず時間をギリギリまで稼ぐか、もう話してしまうかだ。 前者は時間は稼”げるかもしれないけどツミラノアが話さない私に対して怒り、私を殺す可能性が高くなる。 なら私に残された選択は後者しかない。 話に興味を引かせてできるだけ退屈させないようにすれば…長く話そうと時間の流れをそう感じないはず…。 興味を持たせることができるかはわからないけど…やるしかない…! 私は覚悟を決めて重い口を上げ、話始めようとする。 ジッとこちらを見ていたツミラノアも何故か座り直す。 やっぱり根は真面目なのかと私は思った。 「…貴女の正体に気づいたのは今日、6月13日…。この部屋でとある本を見つけたの」 『「悲劇の化け物の記録」』 ツミラノアがニヤリと笑いながら言った。 「…!」 私は驚いた。 何故ツミラノアが知っているのか。 知っているなら何故処分しなかったのか。 『「お前は多分こう思っていることだろう。何故私の秘密である日記を処分しなかったのか、と」』 「…うん」 私はゆっくりと頷く。 『「単純な理由だ」』 『「我が楽しみたかったからだよ」』 「…へ?」 私は呆気にとられてしまった。 あまりの単純さに先程まで悩んでいたのが馬鹿馬鹿しくなるくらいには。 『「人間にはわからんだろうよ、我等のことなど。未知なるものの正体なんてものはな、いつか明かされるものなのだ。だったらあえて仕掛けてソイツが謎を解く様を…真実に近づいていくのを見て楽しむ…。それがわからんお前はまだまだだな」』 ツミラノアにドヤ顔されながら鼻で笑われる。 ツミラノアは全て知っていたんだ…。 私がしてきたことを…全て…。 だから最初に私に聞いてきたんだ。 自分が作ったゲームの通りに私が動いたかどうかを知るため…。 呆気にとられていた私はだんだんと怒りが湧いてくる。 わなわなと体を震わせてしまうほどに。 ツミラノアに鼻で笑われたから怒っているわけじゃない。 私はこんな奴に怯えて怖がり、ゲームの駒にされていたことが腹ただしかった。 こんな奴に…お父さんやお母さん…。 …そして大事なキツキを奪われるなんて…! 私が怒っているのにツミラノアは気づいたようだ。 ニヤリと悪どい笑みを垂れ流している。 私にかかってこさせるためにあんな挑発をしたんだろう…。 何もない私が向かって行ったらあっけなく殺されるのは目に見えてる。 だから私は人間の知恵を使う…! 人は困難に立ち向かった時知恵を振り絞って困難を打ち破ってきた。 私も自分の持てる全てを使って…ツミラノアを倒す…! 私は立ち上がる。 後に続いてツミラノアもゆっくり立ち上がる。 私は何かできないかもう一度辺りを素早く見渡す。 この部屋全体は散らかっている。 私の目の前にはツミラノア。 私の後ろには大きな天井までついてて、横幅が部屋の半分はある本棚。 左側には棚があり、中には何かが入ったビンがズラリと並んでいる。 棚の周囲には何かの部品や作りかけの椅子、机などが無造作に落ちている。 右側はさっきも言ったように積み重なって壁となっている本と剣。 更に奥にはカーテンがあって、開けるとツミラノアや宗教関係の小さな本棚がある。 さっきは暗くて気づかなかったが古びたピアノもカーテンに隠れていた。 …これなら…倒せる…いやこの部屋から逃げ出すことはできるかもしれない…! 私の目的はツミラノアを倒す…すなわち封印することだ。 復活方法があるくらいだから封印方法もあるはずだ。 私はツミラノアをキツキから追い出して封印する。 ツミラノアには私が正攻法からかかってくると思わせて「倒す」と言った。 ツミラノアはニヤリと笑っている。 私はツミラノアに宣言する。 「ツミラノアッ!!」 『「…何だ弱き人間ノエラよ」』 「…キツキを…お父さん達の「宝」を返してもらうよっ…!」 私はそう言って落ちていた本を拾う。 『「奪えるものならな?」』 ツミラノアがそう言い放った瞬間、私は本を投げつけ走り出す。 タタタッ…! 『「目くらましに使ったのだろうが、我には聞かんよ」』 パシッとツミラノアは投げた本を取る。 その間に私はツミラノアの裏へ回り込み、拾った本を二冊投げる。 『「そんなものが我に聞くと思うか?」』 またしもツミラノアに2冊とも取られる。 まずはツミラノアを怒らせる。 怒らせて思考力を鈍らせる、冷静だと私の準備に気づかれてしまうかもしれないからだ。 怒らせている間にも私はある準備をする。 タタタッ…。 私はぐるっと半周しさっきの位置まで戻ってきた。 もう一度ツミラノアに本を投げつける。 『「ッー!そんなもの効かんと言っているだろう!」』 ツミラノアは取らず荒々しく弾き飛ばす。 パリーン! ビンの棚のガラスが割れる。 好都合だ、準備がもっと上手くいくかもしれない。 私は右側に走り抜け、さっとカーテンに隠れる。 本「ツミラノア」と剣を取った。 『「為すすべなくして諦めたかッ!所詮は人間ッ!我の駒にしてやろう!!」 ツミラノアは右手を爪たて、カーテンに飛びかかって思いっきり殴る。 バッキャァァン! ピアノが壊れ、埃と煙が舞う。 『「!?こふっ…こふっ…!掃除くらいっ…しておけぇ…」』 ツミラノアは涙目になりながら咳き込む。 ビュゥゥゥゥゥ! 『「ー!?」』 横から何かが速いスピードで駆け抜けた。 ツミラノアは振り向くが煙と咳が酷く確認できない。 煙から抜け出し、姿を現したのはー ピアノ線と剣を持ち、脇に本を挟んだノエラだった。 タタタッ! 私は全速力で割れた棚まで行ってビンを取り、下にある割れた鋭利な破片と釘を拾い、拾った破片でビンを傷つけヒビを入れる。 『「上手く避けおったか…!だが次は避けれんぞぉぉぉぉぉぇ!!!!!」』 ツミラノアは本気で駆け出す。 爪を立て、ギラギラと睨みつけながら。 相当起こっているようだ。 ビュゥゥゥゥゥゥゥン! 私は全速力でくるツミラノアを待ち受け、手に持っているビンを投げつけた。 がー パキャァン! ツミラノアに弾き飛ばされ、壁にビンは当たり割れる。 『「甘いなッ!そんな手が通用するとでも思ったか!!」』 ツミラノアはノエラの目先まで近づき、右手を大きく振りかぶりー 『「終わりだ」』 「貴女がね…!」 私は後ろに忍ばせていたもう1つのビンを手に取り投げつける。 パキャァン! 『「ッー!?」』 ビンがツミラノアの顔に当たり割れる。 ツミラノアは一瞬何をされたかわからない顔をしている。 私は2つビンを取っていた。 ツミラノアが私を見たのはヒビを入れた後。 私が2つビンを持ってるとは思わなかっただろう。 私は勝ち誇った顔をしてツミラノアに言う。 「フェイクだよ…!」 『「がっ…くっ…!お前っ…!」』 ツミラノアはゴロゴロと転がりながらもすぐさま起き上がるが水で視界が鈍り、目を擦る。 私はその間に落ちている本を適当に開けピアノ線をグルグル巻きにしてしっかり結ぶ。 剣の柄にもピアノ線を結んだ。 私は結んだ後走って本棚へ行き、本棚にある本を数冊抜いた後、巻いた本を貼り付けるよう置いて釘を剣の柄で打ち付ける。 つけ終わった後は数冊の本を戻し、重い剣を両手で持つ。 『「…ぐぅぅ…ノエラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」』 視界を取り戻したツミラノアは目をカッと開き、怒声をあげる。 「…この一撃に…かけるっ!!」 私は走り出す。 両手に重い剣を何とか持ちながら。 「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」 私は力いっぱい剣を振り上げ、ツミラノアをー ガシッ…。 「なっ…!」 『「その一撃は無駄だったようだなぁ!」』 ツミラノアが勢いよく剣を引っ張り取り上げる。 ビーン…。 「…なーんてね…無駄じゃなかったよ全部」 私は走り出し、出口へ向かおうとする。 『「何を…逃すかッ!」』 グググ…。 ツミラノアがノエラを手にかけようとすると後ろから何か音が聞こえる。 『「何の音だ…ッー!?」』 ツミラノアは振り向くと驚きを露わにする。 その音は本棚がツミラノアに向かって倒れてきている音だった。 『「まさかッ!?これのためにーーッ!? ズドォォォォン!! 小さな少女の体のツミラノアは、抗えず本棚に押しつぶされた。 「…逃げなきゃ」 私は本を持って部屋を離れ、走り出す。 悲劇が起こったあの地下室へと。 ーーー地下室。 カチャ 私は体力を温存するように走り、地下室についた。 中へ入ると真っ暗で明かり1つなく何も見えない。 あてもなく手探りで壁にスイッチがないか触っていると、何かを押したみたいだ。 カチッ。 ピカッ! 部屋を見渡すと中央には魔法陣が書かれてあり、それ以外は何も無い。 悲惨な光景のまま残されてると思ったけどそんなことはなかった。 まるで何もなかったようかにピカピカだ。 埃1つすらない。 まさかツミラノアが片付けた…根は真面目だなぁ…。 …いやそんなことは今考えることじゃない。 封印方法を知るために本を見てみよう…。 「ツミラノア」を私は見る。 本をペラペラとめくる。 …封印方法…封印方法…あった。 私はめくるのをそこでやめる。 ーーー 【ツミラノア封印方法】 ツミラノアが手に負えなくなった場合の対処方法。 それは封印である。 ツミラノアは完全に復活するまで復活した陣に縛られている。 復活時に用意した生命エネルギーを吸い取り、そのエネルギーで肉体を乗っ取るのだが、すぐ完全には乗っ取れない。 膨大な数を用意した生命エネルギーを全て吸い取ることで、ツミラノアは完全に肉体を乗っ取り得られるのだ。 その為、封印する場合はツミラノアが完全に乗っ取る前に封印しなければならない。 封印方法は簡単でツミラノアを縛っている陣を消すだけだ。 陣を消すことによってツミラノアは陣からのエネルギー供給が出来ず、乗っ取り進めることができなくなる。 最終的には乗っ取った肉体との繋がりが切れ、ツミラノアは魂のまま再びあの世へ彷徨うのだ。 パタン…。 なるほど…。 簡単すぎてドキドキしてた私がバカに見えたよ…。 一般的な封印方法は代償を必要としたりするからどんな代償がいるのかと思えば…ただ陣を消せばいいだけだった…。 まぁ簡単だし早速やってみよう。 私は陣の目の前まで歩き、書かれている陣を足で消し崩す。 光っていた陣は効力を消え光を失っていった。 「よし…これでキツキは救われる…」 カツ…カツ…カツ…カツ…。 「!」 背後から階段を降りてくる足音が聞こえる。 …ツミラノアだ。 今の私は武器を持っていない、部屋に使えそうなものは何もない…。 今度こそ絶体絶命…だけど私は諦めない。 諦めたら見える希望も見えなくなる。 必死にすがりついて生を求めるからこそ希望は見えるんだ。 ツミラノアは封印が始まっているはずだ…私が0時まで逃げ切れば私の勝ちなんだから…! だから私は諦めない…! カツンー 私は階段を注視する。 キツキの足が見える。 カツンー 私は階段を注視する。 キツキの体が見える。 カツンー 私は階段を注視する。 キツキの顔は怒りに満ちていた。 あれはキツキじゃない、ツミラノアだ。 時計は23時50分…後10分耐えれば私の勝ちだ…。 キツキも救える。 そして縛られたお父さんお母さんの魂も…。 ツミラノアは階段を下りきり部屋に入る。 『「……」』 「…さっきぶりだね、ツミラノア」 『「…さっきぶりだなァ…ノエラ…」』 ツミラノアは完全に余裕の表情が消えている。 怒りが頂点に達しているようだ。 そこに私は焦らせようと考える。 「ねぇツミラノア、決着をつける前にいいこと教えてあげよっか?」 『「なんだ…言ってみろ」』 「貴女の陣を消したんだよ、ほら」 私は退き、魔法陣を見せる。 「この意味がー 『「あぁわかるとも…ククク…」』 ツミラノアは笑みをこぼす。 『「残念だったなぁ!ノエラぁ!我は!この肉体は今日ー 『「完全に乗っ取った!!」』 ツミラノアは見せびらかすように手を広げて私に見せつける。 「…そんな…嘘…」 私は絶望した。 なんて運が悪いのだろう。 今日、ツミラノアは完成してしまっていた。 乗っ取りを…。 もうキツキはいない、死んじゃった…。 後1日早く気づいていれば…私は救えたんだ…キツキを…。 私は悔やみに悔やみ切れない。 私がしてきた努力は全て無駄だったんだ。 「っ……」 私は…私は…「運命」に抗えないの…!? 「ゔっ…!?」 いきなり頭痛が起きる。 私は痛くて膝をついてしまう。 『「絶望したか…まぁ無理もない。なんせ我が相手なのだからな」』 何で…いきなり…! ッーー! 私は光に飲み込まれるような感覚を浴びた。 足りないピースを全て埋めてくれるような感覚…。 気がついた時には私はさっきと変わらない光景が写っていた。 そうだ…。 私は立ち上がる。 ーーー私は「ノエラ」なんだーーー 「私は諦めない…これが最後のチャンスなんだから…」 『「…まだ絶望しきってなかったか…早く諦めた方が楽だぞ?」』 「嫌だね…!諦めるもんかっ…!私はキツキを助けるっ!」 『「無駄なことを…。小さな戦士よ…我が手でお前を葬ってやろう…!」』 「はぁぁぁぁぁぁっ!」 私はツミラノア向かって駆け出していく。 「はぁっ!」 私はツミラノアに飛びかかって殴ろうとするがー ドゴォ…! 「かはっ…!」 『「鈍い鈍い!知恵はあるようだが実力は赤子のようなものだなぁっ!」』 私の腹部に深く、ツミラノアの拳が入る。 ゴロゴロと私は転がる。 「ぅ…くっ…!」 私は諦めない…! 私がなんとか立ち上がろうとした瞬間ー バキィッ! 『「ふんっ!」』 「ぶっー!?」 ツミラノアに体を蹴られて吹っ飛び、私は壁に鈍い音を立てながらぶつかる。 痛い…! 体が悲鳴を上げている…! ズキズキとあちこちが…。 グググ…。 私は起き上がろうとするがなかなか起き上がれない。 腕に力が…入らない…。 必死に起き上がろうとしていると頭を踏みつけられる。 「ぐっ…」 『「さっきまでの威勢はどうした?キツキを助けるんじゃなかったのか?」 ニヤニヤと笑いながらツミラノアは私を見下す。 「…私は…助けるよ…キツキを…!」 『「…その目はなんだ…何故諦めない…その希望はどこから湧いてくる…!?」』 ツミラノアはギリっと歯を食いしばり、更に踏みつける力を込める。 「あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”っ!?」 頭を踏みつけられた痛みで私は声を上げる。 『「どうだ!?痛いだろ?苦しいだろ?そんな一人の人間の為だけにお前が苦しむことはないのだぞ?さっさと楽になれ」』 ツミラノアは私の胸ぐらを掴み、浮かせる。 「…貴女にとっては…ちっぽけな人間かもしれない…でも…私にとって…キツキは大切な友達なんだ…!」 『「…その目…我は好きだぞ。好きなものほど我は壊したくなる…お前が諦めるまで絶対に殺してやらんっ!存分に味わうがいいっ!」』 ドガァ! 「ッ…!」 私は顔面を殴られる。 何度も何度も。 『「だぁっ!」』 ガキィ! 「ごっ…!?」 何度も蹴られー 何度も殴られー 私という、ノエラという存在をツミラノアは徹底的に痛めつけた。 ドサッ…。 壁にぶつかり、私はくたりと壁にもたれかかる。 「ぅ…あ…ぁ…」 私の黒いハイネックはボロボロに破け、そこから傷ができていた。 もう体がピクリとも動かない。 『「そろそろ終わりにしてやる、お前はよく頑張ったよ」』 ツミラノアは爪を立て、大きく手を振り上げー 『「ノエラ」』 あぁ…私は死ぬんだ…。 あはは…なんか怖くないな…。 頭がおかしくなっちゃったかもしれない。 動きも遅く見える…私がそれだけ早く考えているから遅く感じるのかかな…。 キツキを助けたかった、救いたかった…。 だから何度も立ち上がった…でも…。 …でも私はただの非力な4歳なんだ…。 ただの人間なんだ…。 だからツミラノアを倒すことは無理なんだ…もう私には何も…。 ごめん…ー 「…キツキ…」 私は最後の遺言を残してー 「……?」 ツミラノアのトドメがいつまでたってもこなく、私は不思議に思って顔を上げる。 『「……ぁ」』 「え…?」 ツミラノアは涙を流し、振りかぶろうとする途中で体はピタリと止まっている。 私は訳がわからなかった。 『「あ…あ…何故…体が…動かない…!?わ、れ、は…!?」』 『「グッ…!?グァァァァァァァァァッ!?!?」』 ツミラノアは頭を抱え苦しみ出す。 とても苦しそうだ…私は驚いて理解が追いつかない…ただ見ているだけで精一杯…。 私が見ている間にもツミラノアは頭を抱えながらよろよろと後ずさっていく。 『「ウゥ…!アァ!止めろォォォォォォ!!!!?」』 ツミラノアは目を見開きながらひたすら叫び、ばたりと倒れる。 壁にもたれていた私は倒れたツミラノアを 「……な、何が…いや…まさか…!」 私はある可能性を…考えた。 キツキがツミラノアから体を自力で取り返したという僅かな可能性に…! 「…き、ツキ…!」 私はグググと動かない体を倒れさせ、唯一動く右腕を使いながらキツキに這いよっていく。 「……」 キツキは倒れていて顔が見えない。 「ふっ…!くっ…!」 私は体を動かすたびに走る激痛を我慢しながらキツキの場所までたどり着いた。 「…キツキぃ…!」 私がキツキの目の前まできた瞬間、キツキの体がピクリと動く。 「…!」 キツキはゆらりと起き上がる。 「…キツキ…キツキだよね?ツミラノアからー ポタ…。 「…え」 キツキが泣いた。 私は言葉を詰まらせた、あまりの驚きに。 「…ノエラ…」 「な、なに?キツキ…ッ!?」 私がキツキといった瞬間、キツキに押し倒される。 勢いよく押し倒されたから体に激痛が走って私は顔を少し歪める。 「ねぇ…ノエラ…私、助けてって言ったよね…」 「え…いつ…?」 私は今までのことを思い出す…けどキツキから助けを求められたことはない。 「あの時…ノエラが扉を開けてくれなかった時…!」 私の肩を掴む力が少し強くなる。 ーーー 23時40分…後20分…。 ただ待てばいいだけ。 寝たふりをしてキツキを無視すればいいしこれほど安全で精神を削らないものもない。 私は目を閉じる。 何があってもいいよう体力を温存するために。 寝たふりをすると向こう側が騒がしかった。 『ね、ねぇ!私もいれてよ!お化けいるんでしょ!?怖いよ!!ねぇねぇねぇねぇねぇ ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ ノエラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!』 ドンドンガチャガチャ!! 扉を乱暴に叩き、ドアノブをガチャガチャと回す。 私は目を開ける。 目を閉じていると変な想像をして恐怖を掻き立てられる。 ここまで私を殺したいの? それとも人形に加えたいの? 私は怖かった。 ツミラノアという存在が。 『ねぇ?信じてよっ!何があったの!?ねぇノエラぁっ!!』 ーーー 「…!あの時の…!?」 あれはツミラノアの演技じゃない…キツキの演技だったんだ…! でも…ならどうして…? 「私を入れてくれなかった…私を助けてくれなかった…なんでなんでなんで…!?」 ギリギリと肩が壊れそうなくらいの力をキツキは出す。 まさか…ツミラノアがキツキの中に…! その影響でキツキ自身にもツミラノアの力が…! それに無理やり体を取り戻したせいでキツキにかなりの精神的負担がかかってるかもしれない…! 私がなんとかしないと…! 私は痛みに耐えながらキツキに答えた。 「それはっ…!あの言葉がキツキだと知らなくて…ツミラノアだと思ったんだよ…!」 「お化けが私の中にいるって言ったよねぇ?助けてって…信じてって何度もっ…!」 私の肩に更に力が込められる。 「は…ぁっ…!?痛い痛い痛いっ…!!」 私は痛みが我慢できなくなって叫んでしまう。 「っ…!?ご、ごめん…!」 キツキはハッとして私から離れる。 キツキは自分のおかしさに気づいたようだった。 痛みが今もズキズキと悲鳴をあげている。 私は痛みを我慢してキツキに優しく問いかけた。 「…キツキ…は…私に…「お化けが中にいる」って…言ったんだよね…?」 「…う、うん…」 キツキは正座して目を伏せる。 時折、私のことをチラッと見ながら。 罪悪感を感じているんだろう…。 キツキはさっきの自分が自分らしくないことに戸惑いを隠せないようだ。 「私にはね…「お化けいるんでしょ!?」って聞こえたんだよ」 「…あれ、何で違うの…?」 私はさっきから疑問に思い、考えたことをキツキに話す。 「…答えは簡単…お化け、もといツミラノアというお化けがキツキの思いを変えて口に出したからだよ…」 「おばー…ツミラノアが…? 「…そう…ツミラノアは部屋に入れてもらうため、キツキに主導権の一部を渡してキツキを目覚めさせた…。起きたキツキはパニックになって私に思いを…助けを呼んだ。でもキツキの思いは一部ツミラノアに捻じ曲げられてわたしに伝わった…ってこと」 「…なんでツミラノアっていう化け物は私の言葉を変えたの?」 「「お化けが中にいる」なんて言わせたら私に気づかれると思ったからだと思う。私に封印という手段を選ばせないようにするために。」 「私が陣を消した時、ツミラノアが平気だったのは本当にキツキを乗っ取れていたんだと思う、キツキが消えるのも時間の問題だった…」 「でも一見抜けがないように見えるツミラノアの策は、実は抜けがあったんだ」 「ツミラノアはキツキに主導権の一部を渡し、ツミラノアとキツキは一時的にだけど”繋がっていた”。だからキツキがツミラノアと繋がりやすくなり、結果的にキツキは自分の力で体を取り返したんだ。」 「…私が…」 キツキは自分の手を見る。 「そうだよ、キツキが勝ったんだ。ツミラノアに」 私はキツキに微笑む。 「…終わったんだ」 キツキも緊張の糸が途切れたのかくたりと座り込む。 「…うん…まだ根本的な解決はしてないけど…。ツミラノアを封印することは不可能だからキツキがツミラノアを制御できるようにならなくちゃならない」 「…私に…できるのかな…」 キツキは自信をなくしている。 無理もない、乗っ取られたとはいえ自分の手で両親を殺し、自分の手で両親を操り、自分の手で友達を殺そうとしたんだから…。 「…キツキならできるよ…すぐにはできなくても少しずつ慣らせていけばいい…私は時間がある限り一緒にいるから…」 私ははキツキの手を握る。 人の温もりで安心して欲しいから。 「…っ…ノエラぁ…!」 キツキは私に抱きついてきた。 キツキの方が身長は高いのに、今はキツキの方が小さく見えた。 「…キツキ…」 私は優しく包み込むようにキツキを抱き返した。 少し眠たいけど…我慢だ…。 時計をふと見ると…時計の針は0時をとうに超えていて0時13分だった。 私は目を瞑り、この三時間の出来事を思い出す。 もうできればこんな体験はしたくないなぁ…キツキがツミラノアを制御するまで安心はできない…。 私がキツキを守ら…ないと…。 私は予想以上に疲れていて、精神的にも、肉体的にも限界に達していた。 …もう…むり…。 私とキツキはいつのまにか朝までそのまま眠ってしまっていた。 ーーー

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