アプリメーカー

人になった化け物は何を見て何を思うのか ーノエラ過去編ー前編その1

ールールを復活させる前の夜 「ふぁー…眠いー…」 ノエラは遺跡内にテントを張り、テントの中で寝ようとしていた。 「…明日たどり着けるかなぁ…遺跡の奥まで…」 「ふふっ…明日が私の最初で最後の初”体験…楽しみだね…。」 そう、ノエラが探検家になり初の調査。 ノエラは胸をときめかせていた。 「…すぅ…すぅ…」 そうしているとノエラは寝てしまっていた。 ーーー ーー ー ーーー11年前 “ノエラ”という名の少女の記憶は4歳から始まる。 川に流されていたノエラをたまたま来ていた一家に発見され救出。 ノエラが目覚めた時はベッド”の上だった。 「…ここ…は…」 私が目を覚ますと目の前に知らない女の子が私をジッと覗き込んでいた。 私が目を覚ました事に女の子は気づいたようで、ビックリしながらどこかへ行った。 「あー!起きたよ!お母さん!」 「う…うーん…ここは家…?」 体を起こそうとすると痛みが走る。 服をめくって自分の体を見ると痣や打撲が沢山あった。 自分の体を眺めていると、さっきの女の子が扉を荒々しく開けて二人の大人を連れてきた。 見たところあの女の子の両親。 私は助けられたのだろう。 「ほら!目を覚ました!この子!」 女の子が私に指を指すと父親がしゃがみこみ、私の目線に合わせて話してくれた。 「キミ、名前は?住んでた家はわかる?」 「あなた!まだこの子は目が覚めたばっかりなんだから。そのことは後でいいじゃない」 父親が私に事情を聞き出そうとすると母親が父親に怒鳴った。 私は大丈夫なんだけど…。 「あ、ああそうだな…」 「え、えっと…あの…」 「?なぁに?」 私が話そうとすると母親が私にそっと割れ物を壊さないように、優しく聞いてくれた。 「私…覚えてないんです…以前の記憶を…」 「「え…!?」」 二人は私を見てすごく驚いている。 私は二人が驚いている間も自分の身に何があったか思い出そうとした。 けれど何も思い出せない。 頭をひねらせているとある言葉が私の脳内に浮かびあがった。 ノエラ ある一つの単語だけはっきりと思い出した。 それが私の名だと。 「どうしましょ…この子がどこの子かわからないんじゃこの子の家に送ることもできないじゃない…」 「…ふむ…」 二人が私のことで悩んでいる時に、私はいつの間にか口を開いていた。 「…ノエラ」 突然の私の発言に二人はまた驚いたみたいだった。 私も驚いていた、なんで自分がこんなことを言ったのか…。 「ノエラ…?それが貴方の名前?」 「うん…多分」 「ノエラ…この辺じゃ聞かない名前だな…」 二人が悩んでいると今まで静かだった女の子が両親の元へ駆け寄った。 「おとうさん、お母さん」 「なに?キツキ」 「私…この子を…ノエラをここに住ませて!」 「え?」 私はついキョトンとしてしまう。 「…え、でも私達は…」 母親は困った顔で父親をチラッと見る。 「……うーむ……わかったっ!!ノエラが一人で何でもできるようになるまで住んでよしっ!!」 「やったーー!!!」 キツキはぴょんぴょんとはねて喜ぶ。 そんなに嬉しいのかな? ーノエラはキツキ達の家に住むことになったー ー半年後ー夜キツキの家ー寝室ー 「ふー…今日も楽しかったなー」 この寝室は私の部屋になった。 父親曰く「寝室なんていくらでもあるから大丈夫!」とのこと。 私もあの2人のことをお父さん、お母さんと呼んでてお父さんお母さんからキツキと同じくらいの愛情を注いでくれている。 「…楽しいなぁ…」 私はこの半年間のことを思い出しながら口に出す。 キツキと釣りをしたり、よくキツキに毎日のように森に冒険しに行ったり…アーガルウルフに追いかけられたりもしたよねー。 あの時はヒヤヒヤしたよ。 みんなで花見をしに行ったり、川で遊んだり…すごく幸せ…。 でもー ノエラはぱちっと目を開ける。 この一家はどこかおかしい。 と考えていた瞬間ー バッ! 後ろから目を隠される。 「うわっ!?だれっ!?」 私はいきなり視界を奪われて慌てふためいてしまう。 「だーれだ!」 すぐ後ろから聞き慣れた声が聞こえ私はホッとした。 キツキだ。 「…キツキー?どうしたのー?急にされたら驚いちゃうよー」 私がそう言うとキツキから解放される。 「バレちゃった?」 私が後ろを振り向くとニコニコと微笑むキツキの姿があった。 「で、何?今から寝ようと思ったんだけど」 私はキツキがこの夜遅い時間に来たことが気になってキツキに聞いた。 普段ならキツキはこの時間寝ている筈なのに。 「あのね…今日お父さんとお母さんが部屋から出ちゃダメだって」 キツキはコソコソと私に耳打ちで聞かせてくれた。 「今日?なんで?」 私がそう聞くとキツキは困ったような顔で言った。 「わかんない」 「ふぅん…」 私は考える。 やっぱりこの一家はどこかおかしい。 お父さんの許しが出てからすぐ後にある決まりごとがあった。 1:夜21時以降、部屋から出てはいけない。 2:この家に外から持ってきた花や生き物を持ち帰らない。 3:父、母不在時、夜に部屋からノックが起きても扉を開けない。 この決まりごとを絶対に守るようにと念押しされた。 一見普通に見える決まりだけど普通じゃない。 その一:夜21時以降、部屋から出てはいけない。 夜に外にでちゃいけないのはわかる、けどこれは部屋からと指している。 なんで安全な家の中にいるのに部屋でさえでてはいけないのか、それは部屋の外に安全じゃない「ナニカ」がいるということになる。 それを決定づけるのがその三 その三:父、母不在時、夜に部屋からノックが起きても扉を開けない。 これも「家から」じゃなく「部屋から」になっている。 この家には夜21時以降に私達を危険に晒すような「ナニカ」が存在することを確定づけることになる。 最後に気になるのがその二 その二:この家に外から持ってきた花や生き物を持ち帰らない。 この決まりを見ればわかる通り、この家には花や生き物を飾ってないし飼ってない。 有機物が存在しない家なんだ。 ここに生命が存在しない理由…順当に考えればこの家に存在するナニカと関わっているのは間違いない。 私はふとキツキのことが気になって辺りを見渡すとー この部屋のどこにもー ーキツキはいなかったー 私は慌てて時計を見る。 残酷にも時計の針は20:51分を指していた。 「ーッ!キツキが危ないっ…!」 私は慌てて部屋から飛び出しキツキを探す。 いつも一度部屋に戻る時はどんなときでも私に声をかけてくれたのに言わなかったということは…! キツキの悪い癖が出たのかもしれない…! 私はキツキの部屋にたどり着き、扉を乱暴に開けるが、そこにキツキの姿はいない。 「キツキー!どこにいるのー!」 ノエラはまた走り出し、両親の部屋にたどり着く。 ノエラは部屋を開けるが誰もいない。 そこでノエラはあることに気づく。 「お父さんとお母さんがいない…!」 普通私がここまで声を上げてキツキを探し回っているのにキツキの親である両親は影すら見せない。 「両親とキツキがどこかへ行った可能性…いやない…!確かキツキはー 『今日お父さんとお母さんが部屋から出ちゃダメだって』 「って言ってた筈…!ならその可能性は低い…!お父さんとお母さんがこの家から離れるからキツキに言いつけた筈!ならこの家にキツキはいる筈だよ…!」 「だから早く見つかって…!キツキー!!」 私は長い廊下を走りきり、一階へ続く階段を下り切る。 その後もありとあらゆる部屋を、キツキが入れそうな隙間さえも調べたけど…キツキはいなかった…。 「はぁっ…はぁっ…何で…どこに言ったのキツキ…」 私は家中を走り回ったせいで体力を失い息が切れる。 「そういえば…今何時…?」 私は近くにある古時計を見るとその針は 59分を指していた。 「ー!?やばー ゴーンゴーンゴーンゴーンゴーン…。 無慈悲にも時計の針は21時を指してしまう。 「くっ…はやく部屋に入らなきゃ…!」 私は近くの部屋に駆け込もうとすると足元が揺れ出す。 ゴゴゴゴゴゴ…! 「な、何…!?」 私は急な自身に膝をついてしまった。 こんな地震、この半年間なかったのに…! 私がそのまま床にしゃがみこんでいると地震は収まった。 「…今の内に逃げ込まなきゃ…!」 私は部屋に逃げ込み、扉にロックをかけ固くしめる。 「この家…一家は絶対におかしい…。キツキは消えちゃうし…もうわかんないよ…」 私は不意に泣きそうになった。 私はまだまだ子供…だけど今泣く時じゃない…。 私は涙を必死にこらえ何とか泣き止んだ。 扉にもたれかかっていた私が扉から離れて立ち上がった瞬間ー トントン 「ーッ!?」 私はビクッと肩を震わせすぐさま振り返る。 声が出そうになったけど何とか抑えれた。 私は扉を注視したまま、ゆっくりと扉から下がっていく。 たまに後ろを確認しながらゆっくり一歩、また一歩と。 トントン 私がそうしている間にも扉はノックされ続けている。 扉一枚の向こう側には「ナニカ」がいる。 得体の知れないナニカが…。 私の頰に水滴がこぼれ落ちる。 それが恐怖による涙か、焦りによる汗か…今の私には分からなかった。 そんな些細なことを気にした瞬間ー あの扉から目を離した瞬間ー 私の命という灯火はあっさり消えることになる。 そうでなくともそう考えてしまう自分がいる。 恐怖というものは人をおかしくする。 幼いながらの私でもそれは十二分に理解している。 だからこそ今は恐怖を乗り越え考えなきゃいけない。 私は決まりごとを思い出す。 1:夜21時以降、部屋から出てはいけない。 2:この家に外から持ってきた花や生き物を持ち帰らない。 3:父、母不在時、夜に部屋からノックが起きても扉を開けない。 思い返してみるとこれは「ナニカ」の対処方法だと私は気づいた。 その一が確実で安全な方法。 その三がもし部屋から出た状態で21時を回り、部屋に入った時の対処方法。 ーとするとその二は「ナニカ」この家に花や生き物を入れてしまうことで「ナニカ」を有利にしてしまうことだと私は考えた。 そう考えれば今できる最善の行動は「この扉を開けない」だ。 これしかいまの私にできることはない。 トントン 相変わらずノックは力加減も変わらず一定のリズムで叩かれている。 そのノックのリズムが私の不安をかきたてる。 「…とりあえず…何か使えるものがないか探そう。」 私はボソッと呟き足音を立てないようにしながら行動する。 まずは辺りを見渡した。 電気はついていなく、窓から差し込む月の光のみが頼りだ。 辺りを一言で表すと散らかった物置部屋。 本や様々な物が乱雑に積み重ねられたり、置かれたりしている。 「…何か使えるものがないか探してみよう」 私は積み重なった本にもたれかかっている剣を取ろうとすると、剣が奥に倒れてしまう。 「ぁ…!」 剣は倒れちゃったけど幸いにも下にはカーペットが敷いてあって、物音はならずに済んだ。 私は奥に倒れた剣を取ろうと手を伸ばすが届かなく、間にある本を地道に退けていった。 トントン 本を退かす間も扉はノックされていた。 私は慌てずゆっくり退けていく。 退けている途中にある一冊を見つけた。 「…これは…」 私はその本を埃を払いながら手に取った。 「…!」 私はその本のタイトルを見て呆然とした。 そのタイトルはー 悲劇の化物の記録。 悲劇の化け物…。 私は本を開いた。 ーーー 11月19日 僕はツミラノア教の団員。 ツラマ。 今日この日からツミラノア様を妻、キリアと共に復活の儀式を行う。 しかし復活には大量の生き物、生命のエネルギーが必要だ。 膨大な生命のエネルギーを一点に集中して送らなければ復活は失敗してしまう。 だから地下室以外の花や生き物は処分した。 キツキが買っていた魚を逃がすことになってすまん…。 許しておくれ、キツキ。 ーーー 11月29日 魔法陣が完成した。 ツミラノア様の復活の陣は復活させるたび変わるらしく、僕達2人は何百何千何万通りの陣を描き遂に見つけたのだ…! ツミラノア様の魔法陣を…! 後は生命体を用意するだけだ! 「地下室の魔法陣…。」 12月14日 数え切れないほどの膨大な生命体を集めたがまだ足りないようだ。 この街…ヴァルエラルから生命を集めるのが困難になってきた。 町民の私達を見る目が少し悪くなっていた。 これ以上怪しまれないためにも外から取ってくるしかあるまい。 1月7日 家族で川に遊びに来ていた、のは表向きで生命体を取りに来ていた。 途中で急な嵐が起き、街に戻ろうとすると川に溺れている少女を発見。 すぐ救出に向かい無事救うことができた。 起きた少女はノエラといい、記憶を失っているようだ。 あてのない彼女をここに住まわせることにした。 何も知らない彼女を危険に晒さないためツミラノア様が復活したときのためにも、決まりごととして彼女に教えた。 ツミラノア様のことを知られては私達が困るからだ。 彼女を…ノエラを処分しなければならなくなるからな。 3月2日 遂にツミラノア様復活に要する生命エネルギーが揃った。 ツミラノア教最大の願いが今から果たされようとする。 楽しみだ。妻も喜んでいる。 後はツミラノア様復活まで例の憎き聖女に見つからなければ…我らツミラノア様が世界を跪かせる…! 3月3日 ここからは書きなぐられている。 あぁ…ああああああああああ…!! どうすればいいんだ…!? ツミラノア様をふっかつできたのはいい ツミラノアさまがぼうそうしたのもそうていないだ だがー ここからは血で濡れている。 「…3月3日から何も書かれていない…」 恐らくかなり危ない状況だったんだろう。 この文章からはそれを感じさせるものがあった。 それと同時に私はあるおぞましい事に気がついてしまった。 この日記…お父さんが書いたこの本は3月3日から記録が途絶えている…。 そしてこの本に浴びせられた真っ赤な血…。 …お父さんは3月3日の時点でツミラノアという化物に殺されている…。 私は震えが止まらない。 だって3月3日以降のお父さんはお父さんじゃない偽物だったと言うことだから…。 …もしかしたらお母さんもあの化物にやられているかもしれない…。 私とキツキは…両親ではないナニカと朝を起き、ご飯を食べて、遊び、学び、そして寝る、を繰り返していたんだよ…! 私は一刻も早くこの家から逃げ出したかった。 でも扉の前には今もトントンとノックし続けているツミラノアがいる。 私はもう恐怖で頭がどうにかなりそうだった。 怖くて、怖くて、涙が出てしまう。 声を必死に押し殺して私は泣く。 悲しみと恐怖が混ぜ合わさった感情の中。 「…っ…ぅっ…ふっ…」 私は袖で涙を拭き取り泣き止もうとするけど、涙は止まってくれない。 私は泣き止むまで10分かかった。 ーーー21時37分 物置部屋の時計を見るとあれから37分し経っていなかった。 私は一度泣いて感情を洗い流してなんとか冷静を立て直すことができた。 もう一度今の状況、そして日記に書いてあったことを整理しよう。 私が考え事をしていて、ふとキツキのことが気になり辺りを見るとキツキがいなくなっていた。 私はキツキを探したけどこの家にはいなかった。 両親も当然いなかった。 時計が21時を指そうとして、私は急いで部屋に入ろうとすると時計が21時になり、鐘が鳴り出す。 それと同時に地震が起こって収まった瞬間私は駆け出し近くの部屋へ駆け込む。 駆け込み扉を閉めたすぐ後にトントンとナニカが扉を叩く。 ここまでが今までの状況。 そして日記の内容が…。 両親はツミラノア教という宗教の団員でツミラノア復活を司教に命令されていた。 両親は復活のため全力を尽くし長い月日をかけてツミラノアを復活させたけど殺される。 そして日記に何かを書こうとしていた。 私は日記をもう一度見ていた。 3月3日 あぁ…ああああああああああ…!! どうすればいいんだ…!? ツミラノア様をふっかつできたのはいい ツミラノアさまがぼうそうしたのもそうていないだ だがー これを見る限り、暴走したのは想定内ということから対処方法は用意していたはず…。 なら何でその対処方法を使わず殺されたのか…。 対処方法を持っているお父さんがツミラノアに使えず、殺されてしまった…。 お父さんの視点で見れば…お父さんが大切なもの…宗教、妻…子供…キツキ…! キツキがもしあの場にいたら…キツキを守るため対処方法は使わず、キツキを連れてその場から逃げ出した? …おかしい。 逃げるくらいなら対処方法を使えばよかったはず。 多少のリスクはあってもキツキを確実に守れる最善の手段なのに…。 …もしかしてキツキは死んだ…? …生きているならこの日記に書がないはずだし…死んでいたなら慌てている理由も…。 …いや、何か私は見落としている気がする。 もしキツキが死んでいて、現時点で私以外の、この一家が偽物だとする。 なら何でキツキは私に言ったのか? ー『あのね…今日お父さんとお母さんが部屋から出ちゃダメだって』ー 三月時点で家族全員死んでいたとして私を殺さない理由がわからない。 日記を見る限り私を騙して恐怖に浸からせてから殺す趣味でもなさそうだし…。 キツキは生きていてツミラノアに人質にされ、お父さん達はなすすべもなく殺された。 おかしい、これじゃ日記を書く隙さえない。 もう一度、もう一度整理しよう。 ツミラノアに対処方法を使えなかった理由を…。 お父さんとお母さんはツミラノアを復活させた。 ツミラノアが復活したのはいいが暴走した。 しかし暴走するのは想定内、そのまま対処方法を使えばいいだけ。 でも何らかのトラブルが起きて、ツミラノアに対処方法は使えなくなった。 予想外な出来事に多分お父さんとお母さんは逃げて日記を書いた。 そのトラブルについて。 その一 ツミラノアが対処方法を克服、または対策していた。 しかしツミラノアは暴走したと書かれてていたから理性的な行動ができるとは思えない。 勿論さっき考えたキツキが人質にされたという考えもだ。 その二 キツキがこっそり後をついていって、ツミラノアに襲われた。 キツキは運動神経はいいからアーガルウルフの攻撃を避けたり、逃げ切ったりとなにかと凄かった。 だからツミラノアに襲われたとしても両親の所まで逃げ、無事対処方法を使えたはずだ。 だけどあの日記にはそう書かれてはいない。 予想外なこと、そして書きなぐるほど焦ること…キツキ関係で間違いないはず。 キツキの身に何があったの…。 私は考えるが今の私では答えを導き出せない。 私はもう一度この部屋を探索することにした。 さっきの本を退け、よく見ると薄っすらと血痕の跡があった。 本がが影になってて気づかなかった。 私はカーテンが閉まってるのに怪しさを感じカーテンを静かに開ける。 シャー…。 カーテンを開けた先には本棚があった。 タイトルを読むと宗教関係、魔術の本、ツミラノア関係と思う本がズラリとギッシリ詰め込まれていた。 その中で一つ引きずった後のような血痕が付いている本があった。 一番下の段の「ツミラノア」という本だ。 「もしかして…お父さんが…」 多分…多分だけど…お父さんも三ヶ月前にツミラノアからここに逃げて、隠れたのかも知れない…。 私はそう思うと一つ疑問が浮かび上がった。 「…何でお父さんは殺されたの…?」 私はポタリと汗をかく。 「…お父さんも私と同じようにこの部屋に逃げて扉に鍵を閉めて閉じた…」 「なら安全なはずなのに…お父さんは日記を誰かに託すために書いている途中で…ツミラノアに殺された…」 「…そして意識が薄れていく中…お父さんは最後の力を振り絞って…この本棚に…この本に自分の跡を…最大の真実を伝えたんだ…!」 私は足が震える。 ツミラノアはいつでも私を殺”せるんじゃないかと…。 私の手が震える。 お父さんが残した希望を無駄にはしないために…。 ー私は意を決し本を手に取った。 ーツミラノア 私は読み進めていく。 ツミラノア 800年前に封印された伝説の神 強大な力を持ち、人々に災厄を生命には試練を与える神。 ツミラノアは驚異的な能力を持っている。 「魂を入れ替える力」 「生命体の生命エネルギーを吸収する力」 「駒にする力」 しかし強大な力を持つツミラノアにも対処方法は存在する。 一 扉を閉める。 ツミラノアは何故か扉を開けて入ることはできない。 解明されていない謎の一つ。 二 生命体を一定の場所以外に設置する。 (幽体時のみ) 生命体を一定の場所、魔法陣の外に設置するとツミラノアは苦しむ。 しかし人間は効果がない。 解明されていない謎の一つ。 ツミラノアの復活方法。 ツミラノアを復活させるには毎回違う復活魔法陣を見つけて用意し、復活魔法陣の枠内に生命体を設置する。 ツミラノア復活時には生贄が必要であり、人間が好ましい。 しかし復活に失敗することもあり、その場合幽体で復活する。 幽体で復活した場合速やかに対処方法を実行してください。 パラ…。 私は最後のページを読み終わる。 「…全て分かった…分かったよ…」 私はあの3月3日に起きたことを想像する。 ーーー3月3日 「ようやくだ…ようやくツミラノア様が復活するぞ…!」 「私も嬉しいわ…!」 「キリア…愛しいキリア…君と今日で別れることは辛いが…ツミラノア教のためだ…」 「えぇ…わかってるわ…。愛してる…ツラマ…」 二人は抱き合い短いキスをした。 「じゃあ…頼んだよ」 「……」 コクリとキリアは頷き、陣の中に入る。 「始めるよ…ーーーーーーー」 ツラマは何かを唱え出す。 すると魔法陣が光り、キリア共々光に呑まれていく。 「ッ…!」 ツラマもあまりの眩しさに目を瞑り手で覆い隠した。 やがて光は収まり、ツラマが目を開けるとー フラフラと立っていたキリアがいた、 「やったっ!成功だ!」 ツラマはガッスポーズを取り喜んだのもつかの間、みるみるキリアは膨らんでいきー 「え」 爆散した。 爆散したキリアの肉片がツラマの頰についた。 ツラマは頰を触り、べっちゃりと手についたキリアだったものの肉片を見つめる。 「ひっ…!?」 ツラマは我に帰り肉片を投げ捨てる。 つい先ほどまでキスをした妻だったものをいとも簡単に。 ツラマは目の前をバッと見る、目の前には魂が浮かんでいた。 「あ…!ツミラノアさ…ま…!」 ツラマは何とか一瞬だけ冷静を取り戻し、ポケットの中に入れておいた生命体を取り出そうとした瞬間ー 「…お父さん?」 ツラマはピタリと止まる。 背後から聞き慣れた声、最愛の娘キツキがいた。 ツラマはすぐさまキツキに駆け寄りキツキを追い出そうとする。 「キツキっ!早くここから離れるんだ!早く今すぐにっ!」 「え、ちょっと待ってお母さんは何でー 「お母さんは大丈夫だからっ!!はやくっ!」 「っ…!?」 初めて見るツラマの怒り焦った表情。 キツキは初めてこんなにもお父さんに怒られて固まってしまう。 「はやーがはっ!?」 ツラマは何かに腹部を蹴られて吹っ飛ばされ生命体を運ぶ荷台にぶつかる。 「…ぐ…うぅ…キ…ツキ…逃げろッ…!」 しかしツラマの声はキツキには届かなかった。 「……」 キツキはボーッとしている。 どこを見ているのかわからない。 「…キツキ…?」 ツラマがもう一度声をかけるとー 『「その名で呼ぶな、愚かな人間よ」』 ゆらりと動き出し冷たい視線で倒れているツラマを見下す。 「…ッ!?まさか…」 ツラマは呆然とする。 『「そう、そのまさかだ。人間。」』 ニヤリと笑みを浮かべ少女は笑う。 「我の名はー 『「ツミラノア」』 「…ツミ…ラノア…様…」 ツラマは荷台を掴み、ヨロリと起き上がる。 『「そう、お前たち人間が信仰し崇めていたツミラノア様だ」』 「な、なら!悪しき聖女を…!滅ぼしてー 『「断る」』 冷たくかつ冷静にツミラノアは断った。 「な、何故ッ!?私は妻と子を貴方に捧げました!ならー 『「お前の事情など知ったことか。我は我だ。お前達人間に厄災を起こし、生命体には試練を与える。貴様らもよく知っているだろう?」』 ツミラノアはクスクスと笑う。 「そ、そんな…」 ツラマは絶望する。今までのどのような状況よりも深く、深く。 『「では、貴様の生命もいただくとするか」』 「…ツミラノア様の一部になれるのなら…」 『「やけに素直だな?褒美に死よりも苦痛な苦しみを与えてやろう」』 ツミラノアが近づいた瞬間ー ツラマはポケットから何かを取り出した。 『「ん?」』 ツミラノアが見るとー それはハフドリだった。 『「なにッ!?ぐぁぁぁぁぁぁ!!!」』 ツミラノアは苦しみだす。 ツラマは立ち上がり 「うぉぉぉ!!」 ツミラノアの腹部を蹴り吹っ飛ばす。 『「がはぁ…!?」』 ツミラノアは膝をつき逃げていくツラマを見る。 『「お前ェェェェェェ!!!!!」』 ーーー ツラマは走る、長い廊下を。 「ツミラノアにやられる前に報告しないと…!ツミラノア教ならあの悪魔からキツキを救えるかもしれない…!」 部屋に逃げ込めば勝ち…!ツミラノアはまだ幽体と殆ど同じ…まだキツキという入れ物に入ったに過ぎない。 だからキツキよりありとあらゆる全てが劣っているはずなんだ…! そう考えている間に一番近い部屋に着く。 「ここだ!」 ツラマは部屋に入り扉に鍵をしてしっかりしめる。 「これでよしっ…!」 トントン 「!?」 ツラマは驚き焦り始める。 「あぁ!?どうすれば…!どうすれば…!」 ツラマは冷静さを失ってしまっていた。 「はっ…!そうだ日記ッ…!」 「日記を書いて誰かこれを見つければ…!」 ツラマは焦り書き殴るように日記を書く。 だがー ドスっ 「…っかは…!?」 ツラマは吐血し日記にかかる。 ドサッ 程なくしてツラマは倒れる。 「何故…!」 ツラマがうつむせになりながらも後ろを見る。 『「お前が放り投げた肉片」』 狂った笑みをしているツミラノアがいた。 ツミラノアはツラマの横にあるものを投げる。 「…!キリ…ア…!」 放り投げられたものは生前違わぬキリアだった。くたりと光を失った目でこちらを見続けている。 『「我の力を使えばな、我が開けられなくとも人形に開けさせれることができるのだよ」』 「…そんな…バカな…」 そう話している間にもツラマの刺された腹部からは血がドクドクと流れている。 ツラマは視界がぼやけてきた。 ぐっ…まだ…残せていない…。 まだ…! ツラマは歯を食いしばりながら手に力を入れズリズリと引きずっていく。 「ぐッ…!ふッ…!」 『「まだ抗う気か?人間よ」』 ツミラノアはクスクスと笑いながらツラマの右足を踏みちぎる。 ブチッ 「ッ!?がぁぁぁぁぁぁぁっ!?あぁぁぁ…!!」 ツラマは叫び上がるが、這いずるのをやめない。 『「お前の抗うその姿…ゴミのように地に這い蹲り、足を無くしても尚進み続ける心は褒めてやる」』 『「私はそういう姿を見るのが好きなんだ♪」』 そうツミラノアは言い、左足を踏みちぎる。 ブチッ 「がァ!?…ッ…あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”!!!!!」 ツラマは一瞬意識を失いかけたが、唸りを上げ近くに転がっていたナイフで自分の腕をさしなんとか気を保つ。 『「さぁ頑張りたまえよ、我をもっと楽しませろ」』 ツラマと本棚との距離はあと僅か。 後一歩分程度で残せる。 ツミラノアの存在をー キツキの救済をー この悲劇をー 誰かに託し知ってもらうことをー ツラマは手を伸ばし、本に触れた瞬間ー ドサッ 「ーあ?」 ツラマは体が軽くなる。 いやツラマの腹部から下が無く、すっぱりと切断されている。 腹部から血が更にドクドクと流れていく。 『「我は優しいからな?この置いてあった剣で貴様を楽にしてやったのだ、ありがたく思うがいい」』 ツミラノアは剣を積み重ねられている本に置いた。 …ハ…ハ…優しいな…。 アイツの顔を見る限り、あんなのは嘘だろう…僕の目的を邪魔したのだろうが…。 …僕はすでに…達成している…! いつかこれに気づき…お前を打ち倒してくれる者が…キツキを救う者が現れる…その時まで…。 ツラマは目を閉じる。 ー僕はずっと見続けている。 ツラマは息を引き取り、力なき手がズルリと後を引きずるように本に血をつけていく。 『「さて、時間もない。人形にするか」』 ーーー 全てが…わかった。 私はスクッと立ち上がり扉の前まで歩き、立ち止まる。 一つ、試して見たいことがあった。 私は扉にノックしているナニカにノックした。 トントン 私が扉をノックすると外からあれだけ延々と叩かれていたノック音が鳴り止んだ。 やっぱり…。 そして次に私は扉の外にいるナニカにも聞こえるように声を上げる。 「キツキなの?」 私がそう言うと物音一つたてなくなった。 静粛暫くこの場を支配した。 扉の向こうにいる人物はもう知っている。 じゃあなんでこんなことをしてるのか? あることを確認したいからだ。 暫くしてから扉の向こうから声が聞こえた。 「ノエラちゃんー?私だよ、キツキだよー!」 キツキの声が聞こえた。 私はキツキと話し始めることにした。 何も知らない私を演じながら。 「キ、キツキ…?キツキなの?」 「そうだよノエラちゃん!キツキだよ!」 「さ、さっきお化けが…お化けがいたの…キツキは見てない…?」 私は今も壊れそうな、恐怖に怯えた声をだした。 今初めて演技をしたのに意外と上手くいく。 「?お化け?見てないよ?お化けいたの?」 「うん…お化けが…扉の前で……」 「えー?ホント?もう大丈夫だよ。私がここにいるしお化けはいないよ?扉も叩かれてないでしょ?」 キツキは明るく、いつものように返事をしてくれる。違和感を残しながら。 「ねぇ、キツキ」 「どしたの?早く開けてよノエラちゃー 「キツキは私をちゃん付けしない」 私がそう言った瞬間ピタリと声が 止まった。 「どうしたの?キツキ」 私は向こうにいる偽物を問い詰める。 「…たまにはノエラちゃんってよぼーかなって…」 弱々しい声でキツキは言う。 「へー…そうなんだ」 「だから早く開けてよ!ノエラちゃん!」 ガンッと扉が揺れ動く。 鍵をしてるから扉は開かない。 「嫌」 私は否定してキツキを突き放した。 「なんでっ!!」 キツキは声を荒げる。 ガンガンと扉は叩かれる。 私はキツキに冷たく言い放った。 「キツキじゃないから」 「私はキツキだよ!?だからー キツキは更に声を上げ扉を叩く。 私は口を挟み、あと一つのミスをキツキに突きつける。 「私、言ってないんだ」 「…何を?」 「私ね、「お化けがいたの」としか言っていないのにキツキはお化けが扉を叩いてたことまで知ってたじゃない」 「……」 キツキは黙り込む。 私は更に言葉を続ける。 「なんでお化けがここにいたことを知らないキツキがお化けが扉を叩いてたことは知ってたの?」 「なんで知ってるなら私に嘘ついたの?」 「ねぇ……キツキ…!」 話し終わった私はキツキの返答を待った。 しかし中々返事が返ってこない。 私はその間に時計を見た。 22時47分だ、私の考えが合っていれば…。 そう考えているとキツキが口を開いた。 「…ノエラ…私が私じゃないって言うの?私を信じてよ…」 ドサッと扉の前で座り込む音が聞こえた。 ぐすぐすとキツキの泣く声が聞こえる。 あまりのキツキらしくないキツキに私はイラっとしたけど…感情を抑えた。 …私は今からキツキに最後の質問をする。 この質問で全てが決まる。 「ねぇキツキ」 「…ぐすっ…何…ノエラ…?」 「私はね、キツキがお化けじゃないかと思ってるの。キツキがね、お化けじゃないって言うならこの質問に答えれるよね?」 「…答えられるよ!」 キツキは泣き止み立ち上がった音が聞こえる。 「今日お父さんとお母さんがキツキに何か、念を押して注意した言葉を言ってよ。私にも言ったあの言葉を」 私が言ってからキツキはよく考えてから口を開いた。 「…あ!家からでちゃダメだ、だよね!」 私はキツキの答えに確信する。 ツミラノアとキツキの魂は分けられている。 体を乗っ取ったなら記憶も乗っ取れるはずなのに、ツミラノアはキツキという存在を再現できてない。 性格も、口調も、記憶さえも。 ツミラノアは21時以降しか活動できなく、21時前まではキツキに主導権が渡り、眠りについている。 後はツミラノアが21時以降からいつキツキに主導権を渡すのか調べる必要がある。 それをどう聞くかはもう考えてある。 「…ノエラ?どうしたの?」 キツキが恐る恐る私に聞いてきた。 正体がバレたくはないのだろう。 「あ、ごめん。ちょっとボーッとしてた」 私は明るい声でテキトーに誤魔化した。 「…正解は?」 「私も忘れちゃった!」 私は明るい声で嘘をつく。 「忘れちゃったのー!?」 ガタタッと扉の前で動く音が聞こえた。 このリアクションはキツキに似てると思う。 私はそう思いながらも考える。 キツキ、もといツミラノアは私のイメージが変わっただろう。 私が忘れたと言ったのは二つ理由がある。 その一 暗くなった雰囲気を変えるため。 うっかり出すためには少しでも柔らかな雰囲気にする必要がある。 その二 私へのイメージを変えるため。 私はツミラノアとの会話でツミラノアを追い詰め、ツミラノアからは隙のない人間だと思われている筈だ。 だからあえて忘れたと振る舞うことにより、イメージと警戒心を緩めることができる。 「ごめんごめん、忘れちゃってー」 「いやいいよー、私としては開けてほしいかなーって」 私はツミラノアを無視して話を変える。 「あ、そうだ!最近キツキっていつ寝てるの?」 「え?21時だけど?」 嘘だ。 キツキが時々私の部屋に寝に来るけど20時にはぐっすり寝ちゃっている。 私はそんなに早く寝れないから日記や本を読んでから寝てるけど。 私も嘘を混ぜ合わせて聞いてみる。 「えー?最近物音が聞こえるんだけど、コッソリ起きてるよね?」 「…バレちゃった?実はー…最近0時に寝てるんだよ…?お父さんとお母さんには内緒だからね?」 「…へぇ」 言ってくれた。 自分の活動終了時間を。 否定すればいいのに素が素直な性格なのか意外と素直に言ってくれた。 嘘をついている可能性もあるけど疑ってばかりじゃ何も進まないし、ここは信じるしかない。 ツミラノアは21時〜0時までしか活動できない。 今は23時17分だ。 0時まで後43分…0時まで持ちそうにない。 0時になる前にこの部屋にツミラノアが入るのは確実…。 これに対しては策がない。 入られた瞬間私は終わる。 お父さんの願いを叶えられずー 人形にされた両親の苦しみも解放出来ずー キツキを救うこともできないー それは絶対に嫌だ…私はみんなを救う…。 この負の連鎖から…運命から抜け出してみせる…! 私はフルに考えながらキツキと話す。 「そーなんだ?」 「うん!」 「お父さんとお母さんで思い出したけどいつ帰ってくるのかな?」 「…それはわかんないや。ホントどこに言ったんだろ…」 やっぱりツミラノアは今人形を持っていない。 活動前にやられたのだろう。 お父さんとお母さんの最後の抵抗…そして私に託したんだ。 私が見つけることを願って…。 「キツキ、入ってもいいよ?」 「え!入っていいのっ!」 扉の向こうからすごく喜んでいる声が聞こえる。 でも貴女が入ることはない。 この魔法の言葉によって。 「入っても良いけどね…「キツキの嫌いなクモ」がいるんだよ」 「え”!?」 キツキは怯えたような声を出す。 ツミラノアがクモ嫌いとかじゃなく生命体がこの部屋にいることが嫌なんだ。 生命体を見ると激しい苦しみがツミラノアを襲う。 ツミラノアはそれを酷く恐れている。 「あ…く、クモってあの…生き物だよね?」 「「生き物」だよ?キツキ」 「あ、あー!ノエラ!そのクモ…逃すかなんかできない?」 キツキは焦った声を出す。 これでツミラノアが入ることはない。 私の勝ちが決定した。 「私も怖くて…出来るだけ遠くに痛いんだよねー…」 「今日は眠いしここで寝るね、キツキも寝なよ」 「ッー!ダメだよ寝ているうちにクモがノエラを這い寄るかもー 「簡単な結界魔法を貼っておくから大丈夫」 もちろんこれも嘘。 私は魔法なんて使えない。 キツキ…ツミラノアが焦っている姿が思い浮かべれる。 23時40分…後20分…。 ただ待てばいいだけ。 寝たふりをしてキツキを無視すればいいしこれほど安全で精神を削らないものもない。 私は目を閉じる。 何があってもいいよう体力を温存するために。 寝たふりをすると向こう側が騒がしかった。 「ね、ねぇ!私もいれてよ!お化けいるんでしょ!?怖いよ!!ねぇねぇねぇねぇねぇ ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ ノエラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」 ドンドンガチャガチャ!! 扉を乱暴に叩き、ドアノブをガチャガチャと回す。 私は目を開ける。 目を閉じていると変な想像をして恐怖を掻き立てられる。 ここまで私を殺したいの? それとも人形に加えたいの? 私は怖かった。 ツミラノアという存在が。 「ねぇ?信じてよっ!何があったの!?ねぇノエラぁっ!!」 ガチャガチャドンドンッ!! ここまで必死だと…とっくにツミラノアの活動時間は終わっていて、キツキ本人が今も必死に私に助けを求めているんじゃないかと考えてしまう。 でもキツキ本人なら直ぐに諦めるはずだ。 私が傷ついている時はそっとしてくれたし、あれ程の執着心は見たことない。 あれはキツキじゃない、ツミラノア…。 惑わされちゃダメだ…私…! 私はおかしな考えをやめ、寝たふりを続けた。 「うっ…うぅ…なんで…なんで信じてくれないのぉ…」 キツキは座り込み泣き始めた。 私はそれでも無視をした。 ポタポタと涙が零れおちる音が聞こえる。 私は少し気を緩めそうになったけど心を引き締めて聞こえないふりをした。 「…ぅ…ッ…ノエラぁ!」 バキッ! 「ーー!」 ばき? キツキがドアノブを回した瞬間、ドアノブが嫌な音をたてた。 ドアノブが壊れるなんて…。 キツキが座り込んだ状態で勢いよく体重をかけたら…壊れるかもしれない…。 5分ほどツミラノアがキツキより数倍強いだろう力でガチャガチャとドアノブを乱暴に回したんだから壊れやすくなっていた。 そう考えれば納得できる。 私が納得しようがしまいがこの現実は変わらない。 だけどツミラノアは扉を開けれる状況になり、扉に触れることはできない。 だけどモノを使って開けるなら話は別だ。 人形でなくとも棒か何かがあれば直ぐにでもこの部屋に入ることができる。 この部屋に扉を抑えれるほど…ツミラノアの力に耐えれる重さの物なんてない。 やるだけ無駄だ。 ツミラノアが何か使えるものを探しに行ってからこの部屋を出るしか希望はない。 「あ…あはは…アハハハハッ!今から開けてあげるね。待っててねノエラぁ!」 「…え…?」 私は動揺した。 ツミラノア本人が開けることはできないはず…なのにツミラノアは今から開けると言っている。 私は後ずさる。 必死に息を殺し、ガタガタと震える体を抑えながら。 ツミラノアはこの3ヶ月間で進化していた…! 私はツミラノアという化け物を甘く見ていたんだ…。 キィィ…。 部屋に光が差し込む。 私は眩しい光に目を細める。 扉は完全に開かれ、人影がぼんやりと見える。 「…やっと見つけた」 「…くっ…!」 『「やっと見つけた」』 ニヤリと少女は笑みを浮かべる。 「…ッ…。ツミラノアッ…!」 私は息を整え、震える体を抑えながらツミラノアを精一杯睨む。 私とツミラノアの最初で最後の闘いが今始まろうとしていた。

流行中!!

《特集》夏!サマー!夏!